この本では、新型コロナウイルスでなぜ日本の医療が危機に瀕しているのか、その本当の理由を解き明かしていきます。日本で連綿と続く医療費抑制や医師数の削減の歴史とその背景。そこには、個人を大切にしない日本国の本質が表れています。本の中でも紹介しますが、コロナ禍の危機に瀕してもなお、日本政府は全国の病床数や医師数を削減する政策を進めています。これはマスメディアでは全くと言っていいほど報道されませんが、とんでもないことです。
いっぽうで国民の負担は増えていきます。新型コロナ第3波が猛威を振るっている時期にまさかの決定でしたが、75歳以上で年収200万円以上の人の窓口負担が1割から2割に変更されることに。年収が多い人の健康保険料には上限があり、月収139万円を超える人はたとえ年収が1億でも2億でも保険料が一定であるという応能負担になっていない部分は見直さずに、です。
後者のお金持ちは低負担で、応能負担がなされていないというところは、まったく報道されません。
医師の奮闘ぶりは毎日のように報道されますが、日本の医師は以前から過労死寸前で働いてきました。
「若手の研修医に過労死ラインの2倍働けっていう制度、本当にふざけんなと思います」
この心の叫びは、大学卒業後まだ2年目の研修医が、 2020年5月に著者の本田宏が主催したシンポジウムで語った言葉です。
安倍前首相の下、残業時間を規制するなどの「働き方改革」が進められてきましたが、医 師の世界でもようやくその中身が見えてきました。
この件に関しては、本文中でも詳しく紹介しますが、そこには、ある条件に当てはまる病院の勤務医や、若手の研修医には年間の残業を1860時間まで認めるという驚くべき内容が含まれています。「過労死ライン」である、月の残業 80時間(年間960時間)の倍近くの残業を認めるという報告書を、厚労省が発表しました。
〝改革〞してもこの程度ですから、いかに現状の医師の働き方がひどい状況かということが、うかがい知れると思います。
なぜ、そんなことになるのか。ひと言でいうと日本における医師の絶対数不足に原因が あります。OECD諸国の医師の単純平均数と比較 すると、日本の医師は 13万人も不足しているのです。本田宏は 36年間、外科医として働き、最後の25年は日本で人口当たりの医師数がもっとも少ない埼玉県の病院に勤務しました。その経験から長年、医師不足の解消について訴えてきましたが、その問題は今も解決されていません。
そのしわ寄せが一気に現れたのが、今回の新型コロナウイルスにおける医療崩壊です。医師の絶対数が足りないので、病床を増やそうにも増やせないのです。結果、入院できずに亡くなってしまう患者さんが全国で続出していますが、医療がひっ迫すると困るのは国民です。
医療や福祉をないがしろにすることは、国民の命をないがしろにすることと一緒です。そのような国に未来はありません。
今こそ、読者の皆さんも力を合わせて、日本の医療・福祉を変えていきましょう。