会員数70万人の医療系サイト「m3.com」本田宏先生連続インタビュー②

 
 

現状は「医療・福祉再生のラストチャンス」

――新刊『日本の医療崩壊をくい止める: 「コロナ禍の医療現場」からの警鐘と提言』では、現状を「医療・福祉再生のラストチャンス」と指摘しています。どのようなお考えからでしょうか。

 今、Zoomの背景画像にしているのは「噂の!東京マガジン」に昨年出た時のテレビ画面ですが、ディレクターさんが気合を込めて、このフレーズを大きなテロップにしてくれました。私は20年ぐらい医師不足について訴えてきましたが、残念ながらその主張が、医療界を含めて大きな世論になりませんでした。さらに状況は悪化し、2023年度から医学部の定員が削減され、地域医療構想で公立・公的病院が再編統合されようとしています。私から見れば大変危機的な転換点なわけですね。

 この20年の議論を振り返ってみると、2006年頃には小松秀樹先生の、『医療崩壊「立ち去り型サボタージュ」とは何か』を契機に医療提供体制や医師の働き方が話題になり、その後の政権交代の遠因にまでなるなど「医療」が社会の議題設定になっていました。

 しかし、その後の東日本大震災と福島原発事故以降は、久しく医療に対する関心が乏しくなっていました。そこを襲ったのが新型コロナです。国民の医療崩壊に対する関心が高まっているこの時期に医療提供体制を改善する方向へ舵を切らないと、次のチャンスは来ないというのが、私が「ラストチャンス」と考えている意味です。

――新型コロナに限らず本田先生が現在一番の問題だと考えているのはなんでしょうか。

 2023年度からの医学部定員削減ですが、これは医療費抑制政策の氷山の一角です。今はコロナ対応で一時的に医療機関への補助を増やしていますが、コロナ対応による財政赤字の増加で、今まで以上に医療費と医師数が抑制されることは、ほぼ間違いないですね。

 歴史を振り返れば新興感染症は必ず襲ってきます。その時に毎回、同じ問題を繰り返すのかと聞きたいです。今回も医師不足による感染症や集中治療専門医不足が医療逼迫の原因になっていました。医学部定員削減は言語道断ですが、医師の労働環境を改善する実効性のあるタスクシフトの実現も喫緊の課題で、私は一刻も早いフィジシャンアシスタント(PA)の導入が必要と訴えています。厚労省は特定行為を行う看護師の増員と多職種へのタスクシフトで様子を見たいようですが、医学部定員削減を考えれば一刻も早いPA導入を目指したいと思います。

――新型コロナでは本田先生の活動にどのような影響がありましたか。

 外科医を引退してからは年間100回以上講演していましたが、去年から今まで45回の講演が中止になりました。困ったなと思っていましたが、時間に余裕ができた分リモートでいろいろな勉強会に参加して、幅広い知見を得ることができました。講演もリモートでできるようになって、出張が減って、ちょっと家庭内では評判がよくなっています(笑)。外科医時代は365日病院に行って、引退後も講演で家を空ける生活でしたから。

 政府の方針に物を申す私は誤解されることが多いのですが、今後も黙らないつもりです。英語で「クリティカルフレンド」という言葉がありますが、直訳すれば「批判する友人」です。しかし「重要な友人」という意味もあるようです。飛行機事故の防止では、コックピットで機長に副操縦士が意見を言いやすい環境づくりが必要とされているようです。これからも「国民のいのちを守る」ために厚労省や医療界の「重要な友人」でありたいと思っています。

 最近は特に、若い世代に自分の経験と知識を伝えていくことが大事な仕事だと思っています。「いつも医師不足ばかり言っている人」と見られることもありますが(笑)、「医療費亡国論」という日本の医療政策が私の目の前で変わらなくても、若い人に伝えていくことで、「日本の医療崩壊をくい止めて、安心して生きられる国」にしていきたいというのが私の夢なのです。

(全文公開に関しては、本田医師がm3.com編集部より許可を得ています。)